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△▼ 中国経済最前線−特集ニュース版− 《第3号》 1999/06/30 ▼△
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《第3号》 1冊の本「学習の革命」 〜企業戦略の全貌に迫る〜
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------------------------------- INDEX --------------------------------
◎《第3号》本文
◆100日で、1億元かけて、1,000万部を販売
◆科利華軟件集団、総裁の宋朝弟とは何者?
◆総裁「宋朝弟」の理念、経営哲学とは
◆資本市場の魔力、株価操作の妙味、宋朝弟の綿密な戦略とは
◆後書き
◎次回の予告
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《第3号》本文
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◆100日で、1億元かけて、1,000万部を販売
98年12月8日19時38分、中央電視台のゴールデンタイムのCMに、
定価わずか28元の1冊の本が出現した。題名は《学習的革命》。中央電視
台のゴールデンタイムといえば、今や世界的にも高額なCM料金で有名。わ
ずか25秒のCMで25万元。この知らせは、中国のマスコミ界に衝撃を走
られた。
広告主は教育ソフトの開発・販売などで、中国のコンピュータ・ソフト業界
では著名な「科利華軟件集団」。同社の宋朝弟(総裁)は「発売から100
日間で、宣伝・広告を含め1億元の発行費かけて、1,000万部を販売す
る。」と、三つの「1」を並べて豪語した。発行費の内訳は、広告・宣伝費
が5,000万元で出版コストが5,000万元。中央電視台以外にも「中
国教育台」などのCMと全国各地の日刊、夕刊などの新聞広告も行う。
中国で最も著名な映画監督の一人、謝晋氏は「この本は、我々の子供の一生
を変える助けとなる。」と絶賛し、「CMに足を踏み込むのは最初で最後」
と言いながら、無償でCM撮影に協力した。
《学習的革命》とは、1992年にアメリカの教育博士と、マルチメディア
通信の専門家として著名なニュージーランドの作家が共著で出版した本。原
文タイトル「The Learning Revolution」の中国語版。同書の原文は既に11
種類の言語に翻訳され、世界30数カ国で発売されている。中国では97年
に上海三聯書店が中国版を出版しており、1年間に9版を印刷するほどの売
れ行きで、既に合計数十万部が販売されている。この度、科利華軟件集団が
上海三聯書店と共同で「改訂版」(新版)として、98年12月中旬から販
売を開始した。
12月9日、北京市内のホテルで《学習的革命》の販売計画が発表された。
その日、出版業界などでは「100日で1億元かけて1,000万部を販売」
とは、達成不可能な夢物語と冷ややかな視線を送った。近年来、中国で最も
売れたベストセラーでも、わずか104万部にしか到達していない・・と。
「たかが1冊の本に巨額の宣伝費を課す意義は何処にある?書籍市場が低迷
する中、たった 1冊の本に1,000万部の市場を生み出す力はない。海賊
版の対策はどうするんだ?」といった批判が相次いだ。業界関係者によれば、
中国の97年度の図書販売総額は、一般書籍に広告・ポスターなどを含めて
も275億元に到達する程度。その種類は12万にもわたる。仮にこれが実
現できた場合、2億8,000万元の売上げ、つまり市場の1%を越えるこ
とになるという。
多くの新聞紙上では、「危険な旅行」「狂気の革命」などといった同様の論
調で非難していた。また、北京の学者など8名の共著によって、「打破神話
〜解読《学習的革命》〜」なる解説本も出版された。同解説書では「《学習
的革命》は虚構の学習方法であり、学習者の個人差と多様性を軽視しており、
中国の学生が閲読するには適さない。西洋文化は学習するに値するものも多
くあるが、外国に媚びる姿勢は警戒しなければならない。技巧、コツ、方法
論に満ちあふれた一種の曲芸で、憶測と虚構に過ぎない。」などと、厳しい
批評を展開している。この解説書の存在は一部の新聞紙上でも取り上げられ
ている。
各界からの批判を受けながらも予定通り販売を開始したが、売れ行きの方は
マズマズの様だった。北京の大型書店では12月中旬から約一ヶ月の間に旧
版が1,700部、新版が6,422部の売上を記録した。全国では1月上
旬までの一ヶ月間に200万部近い売り上げになったという。低迷する出版
業界においては、ある種の奇跡といえる数字である。
しかし、残された三分の二の時間に800万部を販売するのは、確かに絶望
的といえそうだった。
◆科利華軟件集団、総裁の宋朝弟とは何者?
中国のソフトウエア業界では、98年第2四半期から国内市場が地滑りを起
こし始めた。アジア危機などの影響もあり、ソフト市場の売上総額は前年比
で30%減にも達した。倒産・撤退に追い込まれるソフト会社も現れる中、
科利華軟件集団は同年の純利益が1億4千万元に達し、総資産4億2千万元、
純資産2億7千万元を記録した。
宋朝弟は約10年前の89年、清華大学レーザー物理工学の修士課程を卒業
した。卒業後、自己の直感だけでソフト産業の未来に大いなる希望を抱いた
宋は、清華大学付近でアパートを借り、その後の2年間をソフト開発に傾け
た。そして91年、中小学校の校長を対象にした「校長オフィスシステム」
を開発。同時に科利華軟件公司を設立した。その数年後には、中国で最大の
教育ソフト会社にまで育て上げた。
93年末、宋は「CSC電脳家庭教師」なる家庭内ソフトの開発計画を社内
で発表した。しかも販売価格は1本で2,000元と、家庭内ソフトの分野
では中国で前代未聞の高額さ。98年の都市部平均年間所得が5,425元
であった点から考えても無謀と思える計画。その日、即座に幹部社員8名を
召集し研究会議を開催。午後3時から翌日の午前8時まで討論したが、社員
たちの結論は「パソコンが家庭内に普及していない現状では根本的に市場が
存在しない。」と、計画を否定。だが、宋は動じることなく「私は既に考え
抜いた。良くてもやる、駄目でもやらなければならない。」と譲らなかった。
翌年の12月、約1年の期間を費やして「CSC電脳家庭教師」の開発が完
了した。そして12月5日〜14日、科利華軟件公司は北京の中国革命軍事
博物館で500台のパソコンを並べて、同ソフトの発表・展示会を開催。約
2万名近い中学生が訪れ、実際のソフトにも触れた。殆どの学生達は絶賛。
その噂は瞬く間に広がった。しかし、実際に購入の主導権を握っているのは
学生達の両親。彼らの大部分は、パソコンも判らなければ、ソフトが何たる
かも判られない。そんな人達に、ソフトの優位性をどれだけ語ったところで
全く意味を成さない。
そこで宋は、「大学に合格しなければ、2,000元の罰金」と、誰にでも
理解できるスローガンを叫んだ。つまり、学生の親たちにとっては、子供達
に「大学に合格しなければ、2,000元の罰金だよ!」とハッパをかけさ
せる道具となり、親たちには「大学に合格すれば2,000元など安いもの
だ」と思わせる戦略だ。そして、わずか1ヶ月の間に2万本余りを販売して
しまった。販売額にして4千万元(現行レートで約6億円)という驚異的な
数字を。
ソフトウエア販売の旨味は、いうまでもなく部数が増えれば増えるほど、利
益率が高くなる点だ。中国でCD-ROMの原価は1枚で約3元程度。開発費がど
の程度かかっているかは不明であるが、人件費の安い中国では大部分が利益
に繋がる。かくして科利華軟件公司は急速な発展を遂げることになった。
94年、「中国電脳教育報(新聞)」が評定する「中国コンピュータ業界の
十大人物」で宋は第3位に選ばれた。そして、96年の売上総額は1億2千
万元に到達。その年末には米国の「Business Week」紙で、科利華軟件公司
は中国ソフトウエア市場の決定力の1つと評されるまでになった。理由は、
その発展速度の早さと、中国の教育ソフト市場で30%のシェアを記録した
点という。
94年に株主10名で非上場の内部株式制度を導入していた科利華軟件公司
は、97年に科利華軟件集団を設立した。同年7月、第1回の株主総会を開
催。180名の株主から21名の取締役が誕生し、会長兼総裁には宋が選出
された。同時に同集団の中核企業として「科利華教育軟件公司」が成立。資
本金は5,000万元で、宋が3,902万元と宋の妹の旦那が1,097
万元を出資し、99%以上の株式を宋ファミリーが握る株式会社となった。
◆総裁「宋朝弟」の思想・理念、経営哲学とは?
順調に成長していた科利華と宋にも挫折はあった。97年初頭、宋は98年
3月までに「中国最大のソフト会社」になる目標を掲げた。「毎月、1つの
業界向けに管理ソフトを開発し、1年で10業界、各業界には1,000セ
ットずつ販売し、全年で1万セットを販売する」という計画を立てた。
手始めに「飲食店オフィスシステム」の開発を始め、97年7月に全国的な
販売を開始。北京市内で200名の従業員を駆り出し、3500店の飲食店
を訪問するなど、各都市で人海戦術による販促活動を推進した。その結果、
同年の8月中旬には広州支店で500セットの販売を記録した。
ところが、販売して間もなくシステムの不具合などが発生し、各地で返品が
多発。結局、この計画は大きく遅れることになり、現在に至っている。
「中国最大のソフト会社」を夢にて挫折した宋は、以前にも増して思想に耽
る時間が増えていった。やがて、企業経営には5つの一流が必要と考えるよ
うになった。「一流の思想・理念」「一流の商品開発能力」「一流の販売能
力」「一流の団体」「一流の管理」。しかし、「科利華集団には本当の意味
で一流のものは何もない。」と、宋は考えた。
これでは、今後の発展に多大な制約となる。そう考えた宋は、1つの突破口
として「一流の思想」に活路を見いだした。間もなく、外国の著書から「量
子型リーダーの能力」を学びとる。
そして自己の経営理念に量子理論を基礎した哲学を応用するようになった。
これが、自己を革命するだけでなく、やがて会社を大きく変え、社会を揺る
がすまでの原動力となっていった。
「工業時代の発展模式は、ニュートン力学を基礎にしており、この世界では
物質性、連続性が重視され、予測可能な世界。ところが、情報時代に突入し
た今日では、量子力学に酷似しており、非線形で予測不可能な世界。我々の
観念・思想が世界を大きく作用するようになり、とりわけコンピュータソフ
ト、金融、メディアなどのソフト産業には非常に適応しやすい。」と、宋は
唱える。
社員に対しては、「情報時代の管理は”管理しない”事」と唱え、宋が社員
と会社で会う時は「あまり真面目にならないで!」と声を掛けるらしい。
「投入」「堪能」「楽しく」を合い言葉に、財務部門や生産部門を除く開発
部門など、創造性を必要とする部署では、自由な勤務態度を推奨している。
投入するために、会社で「歩いたり」「横たわって」ても構わないという。
以前、科利華集団では、1時間に5元の残業手当を支給していたが、積極的
に残業をする者は殆どいなく、直ぐに取り止めた。その後、自主的な残業に
切り替えたら、進んで残業する者が増えたという。
「本当に賢くて価値のある者は、たった5元ために貴重な労力を捧げないし、
残業手当のためだけに会社には残らない。」のだと、宋はいう。
ただ、社員に対してインセンティブが何もなければ、志気は上がらない。そ
のため、実際のところは成果重視を強化したようであるが、この点に関して
宋は何も語っていない。この辺は企業秘密かも知れないが・・。
このように自己改革を続ける中、宋は1冊の本《学習的革命》に魅せられる
ようになっていった。この本の中にある1つのフレーズ「想いさえすれば、
成し遂げられる」を頻繁に口ずさむようになり、「重要なのは想い描くこと
で、描く大きさが成し遂げられる大きさに比例する。情報時代は過去が未来
を決めるのではなく、現在が未来を決定するのだ。」と。
ただ、そのためには先立つもの、つまり「金」が必要だ。そう考えた宋は、
次第に資本市場の巨大な魔力に魅せられていった。同時に株式上場にも並々
ならぬ熱意を見せ始めていく。
98年6月、上海三聯書店と共同で《学習的革命》「改訂版」の販売を決め
た宋は、同年9月、1,000名以上の社員を前にして、
「我々も、ついに羽ばたく時期が来た。しかし、まだ大空に飛んでいない。
今はしっかりと安全ベルトを締め、大空に舞ってから安全ベルトを外しまし
ょう。」と語り、安全ベルトが何かは語らなかったが、株式上場の意欲を切
々と語ったという。
そして、冒頭の通り、98年12月8日19時38分、中央電視台のゴール
デンタイムのCMに、定価わずか28元の1冊の本が出現した。
その前日、従業員は中国全土の書店に合計16,000通の手紙を送付した。
翌日の8日には全国10都市14カ所の印刷所で、不眠不休の印刷が始まり、
その5日後には第一版500万部の印刷が完了し、全国30都市の書店に並
べられた。
◆資本市場の魔力、株価操作の妙味、宋朝弟の綿密な戦略とは
かくして、100日の戦闘が始まった。実際のところ宋自身も1,000万
部の販売に多大な希望を抱いていたわけではなかったようだ。宋は部下に、
500万部を販売できれば祝杯を挙げることができると語っていたという。
宋の解説によれば、その発想と思考は、「先ず1,000万部との目標あり
きで、科学による論理的な概念を取り払う。次ぎに販売が成功した時の社会
的意義を全社会に唱える。その後、実現の具体的な手段を提示する。最後に
失敗した原因を追求する。」と、相変わらずの独自理念を語っている。
ただ、失敗するとすれば、海賊版の出現が最も致命的という。そのため、法
的保護の措置は十分に済ませており、海賊版の出版機会を与えないためにも
100日間での目標達成には大きな意義があるという。
テレビ・新聞などの広告・宣伝以外にも、同社では30の都市で展示会を開
催しており、合計で300万人前後の参加が見込まれたというが、招待状や
販促品などの配布によって、《学習的革命》と科利華集団の存在は少なくと
も直接3,000万人程度の目には触れている。間接的な波及効果を考えれ
ば、その10倍は見聞している可能性もある。
この点について、専門家の間では科利華軟件集団の無形財産が5倍から10
倍、或いはそれ以上に拡大したとの見方が存在する。
科利華集団では98年5月18日、北京無線電廠との合弁によるネットワー
ク書店の構想を明らかにしており、今年99年1月から開通している。年間
の売上目標は2億5,000万元で、その後ネットワーク学校も開校した。
その前後のタイミングで今回の1,000万部の出版計画を披露した。宋は、
これら新規事業への波及効果については言及していないが、全体の戦略の一
部ともいえる含みを持たせている。さらに、近い将来は100万元を掛けて、
アメリカ人にむけた1冊の本《中国的教育》の出版を予定しているという。
そして今年3月、記者会見で発表した計画には届かなかったものの、第一版
で印刷した500万部は完売したと発表した。一応、宋の思惑は達成できた
ようである。ただ、あくまで科利華集団が発表している数字だけが頼りのた
め、事の真相は判らない。
しかし、筆者が上海市内で見た限りでも、この時期、書店の大小に拘わらず
殆どの全ての書店や、街の新聞売場にも同書が並べらており、実際に購入し
ている人達や同書を手にして歩いている人達を数多く見掛けた。勿論、現在
でも多くの書店で同書が並べられている。この点から判断しても相当の売れ
行きだった事は否定できない。また、新聞などの一説によると、6月時点で
600万部の販売に達したとも言われている。
ところで、科利華集団の発表によれば、3ヶ月で約7,000万元の発行費
用を掛けて500万部を販売したという。定価が28元であるから、3ヶ月
での売上総額は1億4千万元となるため、売上の半分が純コストとなる。
この数字が正しければ、ここから販売店のマージンやその他の経費を差し引
いたとしても、お釣りがくる計算だ。それ故、本の売上だけでも一応の成功
を達成したと思われる。
加えて、前述の通り、同社の無形財産が格段に増加した点も見逃せない。各
界から批判されたことで、通常の広告・宣伝以外でも、良くも悪くも新聞紙
上などで無償の宣伝も展開してもらっている。一見すると無謀な挑戦と思え
るが、これだけでも実は綿密な計画の上で進められているともいえそうだ。
ところが、話しはこれで終わらない。
《学習的革命》のテレビCMが始まる前の98年11月、科利華集団は上海
証券取引所のA株(中国内向けの中国企業株)市場に上場している国有企業
の阿城鋼鉄集団と株式譲渡の交渉を密かに進めていた。
テレビCMの前日にあたる12月7日、阿城鋼鉄集団の株(流通7500万株)は、
急転換を迎える。
その前日、53万株しかなかった同社の出来高は207万株に急上昇。9日
には520万株に達した。株価も12月7日の終値が4.53元であったの
が、99年1月28日の終値では13.57元、4月16日には15.8元、
そして上海のA株指数が過去最高値を更新した6月28日の終値は25.2
元にまでに上昇した。わずか半年で株価が5倍強にも跳ね上がった。現在も
高値を維持しており、中台関係の悪化で先週から上海の株価指数が下落する
中でも、7月19日の終値は26.87元であった。
阿城鋼鉄集団とは、黒龍江省のごく一般的な国有の鉄鋼メーカー。経営内容
も一般の国有企業と変わらず芳しくない。従業員への給料支払すら難しい程
の財務状態とも言われている。98年の主営業利益は2,798万元で前年
比3.1%減。赤字ではないにしても、上場企業としては非常に少ない利益
しか稼ぎ出していない。
マスコミは中国の株式市場で「前代未聞の株価操作手法」と、はやし立てた。
これに対して宋は、「正に資本市場の魔力であり、市場は一企業の、その時
点での絶対的な利益だけを見ているわけでない。将来、如何なる価値を生み
出すのか、その成長力に期待しているのだ。」と。
無形財産が生み出す価値を、ごく短期間で、しかも最も効率のよい方法で人
々に見せつけてくれた。
そして4月16日、科利華集団は阿城鋼鉄集団との株式譲渡と資本提携の内
容を明らかにした。それによれば、科利華集団は1億3,400万元を費や
して阿城鋼鉄集団の28%の資本を手中にし、筆頭株主にのし上がった。同
時に中国証券監督委員会は、これを批准した。形はどうであれ、宋が上場の
夢を語った昨年9月から、わずか半年程度の期間でほぼ実現した。
更に凄いのは、実際に用意した現金は株取得のための3,400万元だけと
いう。
科利華集団は株以外に阿城鋼鉄集団の債権1億元を購入して、筆頭株主とし
て阿城鋼鉄集団の経営権を取得した。と同時に科利華集団が所有する「暁軍
公司」の80%の株式と、同社の有力ソフト「電脳家庭教師(中学生版)」
の著作権とを、合わせて1億元で阿城鋼鉄集団に売却している。
そして、阿城鋼鉄集団は「黒龍江省科利華網絡有限株式公司」として生まれ
変わることになった。
7月19日、同社の取締役会で、株式番号600799の「阿城鋼鉄」が「科利華」
に改名することで決定された。実際には、今年8月20日に臨時株主総会を
開き正式に承認された後となるが、名実共に「科利華」の名前が上場リスト
に掲載される日は間近に迫った。
上場の夢を果たした宋は「頭の中が空白になった」と、後に語っている。
ただ、上場によって革命を放棄する様子はないようだ。今頃は、次ぎの構想
で頭の中がいっぱいのことであろう。
◆後書き
昨今、暗い話しが多い中、今回は趣向を変えて明るい話題を取り上げてみた。
一企業の戦略、一経営者の理念・哲学を取り上げた事で、読者の皆様各々で
感じ方は違うと思うが、現実の中国の一側面として参考になれば幸いである。
ここで、筆者が感じた事を2点ほど挙げておきたい。
1つは、一人のカリスマ経営者が個人のベンチャー企業として想い描いた夢
が実現した事実。これは、経営者と従業員の努力の賜物であることは言うま
でもない。ただ、宋が大学を卒業した89年は天安門事件の年。その時点で
は、このようなベンチャー企業が大きく羽ばたく事など、誰しも考えられる
ことではなかった。たぶん、宋自身も当時はこれ程までの速度で成長すると
は予想していなかったと思う。
社会的な環境が整っていなければ、成し得なかった筈だ。その意味で、中国
の資本主義が急速に進んだことを如実に物語っている。その具体例として、
科利華集団の活躍は大いに注目できる。
2つ目は、科利華集団の戦略、宋の思想・哲学。中国に進出している日系企
業或いは日本国内の企業活動などで、これらの戦略は直接的に活用できるも
のではないかも知れない。しかし、彼の発想は大いに学ぶことができるし、
自分の立場に応用していけば役立つ事は沢山あるように思う。発想そのもの
が「良いか悪いか」の議論をするつもりはなく、単にこのような発想もある
という事を提起したかった。
科学技術などでは日本に大幅に遅れている中国ではあるが、ビジネス戦略と
いう点では優れた中国企業も多い。これからは欧米企業だけではなく、中国
企業からも多くのビジネス戦略を学ぶことができるのではないだろうか。
筆者は純粋に、そう感じた。
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